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これからの街づくり
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【PROJECT】武蔵浦和 SKY&GARDEN

さいたま市の副都心と位置づけられ、市が用意したマスタープランをもとに全9区画、約30haにわたって再開発が進む「武蔵浦和」駅周辺地区。そのなかでもひときわ異彩を放つ大規模複合再開発として、注目を集めている一画がある。2016年3月に竣工した『武蔵浦和 SKY&GARDEN』だ。敷地面積約2ha。5棟計776戸の住宅棟に加え、独立型の共用棟、オフィス棟、商業施設、そして約7,500m2の庭園で構成され、そこに暮らす住民の数は、およそ3,000人。埼玉県で最大級となる再開発事業は、これからの「街づくり」のあり方を指し示している。

  • YUICHI UTSUGI宇津木 雄一
    住宅事業本部 都市創造部 マネージャー

※所属部署・掲載内容は取材当時のものです

社会背景を踏まえた「多世代共生型街づくり」。
これを手がけられるのは自分たちを置いてほかにいない


2013年7月の着工とともに、『武蔵浦和 SKY&GARDEN』の現場責任者として着任し、奔走してきた宇津木雄一の話はつねに明快だ。コンセプトを問えば、「『多世代共生型街づくり』です」。プロジェクトの特徴を問えば、「〈再開発〉〈大規模〉〈複合用途〉〈共同事業〉〈コミュティ形成〉という、5つのワードに集約されます」といった具合。平易な語り口で聞き手を話へと引き込んでいく。それができる理由は、彼の口から語られるこれまでの働きぶりが証明する。だから5つのワードをもとにプロジェクトを紐解いていけば、自ずとこの大規模な再開発の全貌も明らかとなっていくのだが、まずはコンセプトについて、彼の話に耳を傾けたい。

「少子高齢化、女性の社会進出、単身世帯増加などの社会背景の変化に伴い、現代社会は日々の暮らしのなかでの世代間交流が希薄となっています。この状況を放置しておくと、街は多様性を失い、活気をなくし、いずれ死んでしまいます。本プロジェクトは官民一体となって進める再開発事業です。行政がマスタープランで思い描いている都市像を、公共に資する計画としてまとめ上げ、それをいかに具現化できるか。デベロッパーの本分が問われるなかで、街づくりに情熱を注いできた日鉄興和不動産にとって、『多世代共生型街づくり』というコンセプトは、社会背景を踏まえた当然の帰結でした」

さらに言えば、人と向き合い、街をつくってきた自分たちにしかできない取り組みでもある。そう話す宇津木の言葉に、プロジェクトはスタート時点からしてケタ違いの熱量を秘めていたことが強く感じられる。

多くの関係者が関わる再開発に街づくりへの想いを反映させる。
現場をコントロールしていくことが求められる


このプロジェクトを読み解く1つめのキーワード〈再開発〉について、宇津木はデベロッパーが主導する一般的な開発との事業スキームの違いを指摘する。多くの開発はデベロッパーが主体だが、再開発の場合は複数の地権者が存在する。その地権者が再開発組合を結成し、組合が事業主体となって、事業が進められていくところに大きな特徴があるのだ。

「本プロジェクトにおいても組合が建物を建て、組合員である各地権者が正当な評価にもとづく取り分を建物内に確保したら、残りを日鉄興和不動産が購入。その資金を元に、組合が事業を進めるというスキームとなっています。よって、日鉄興和不動産は、事業に参加させてもらう立場でした」

とはいえ、組合にはプロジェクトを手がけるノウハウはない。そこで本件ではコンサルタント会社が介在し、組合の代弁者となった。そして宇津木は同社を通じ、組合の意向を踏まえた再開発事業として、現場をコントロールしていくことを求められたのである。加えて、デベロッパーとして行政とも向き合う必要があった。再開発においては、公共に資する事業であることから、組合による建物の工事のほか、敷地の周囲で道路工事や下水道工事といった公共工事も同時進行で進められる。この公共工事の事業主体は行政であり、宇津木は、デベロッパーとして、異なる事業主体が同時に工事を進める、その調整を担うこととなった。これがことのほか難しかったと明かす。

「南側に県内最高層の32階建てタワーが立っていますが、建設中、その資材を置いた場所に道路工事がかかってしまい急遽、行政から仮設計画を変更してほしいとの要望が。ただ、膨大な量の資材でしたから『とりあえず、その辺に』ともいかず、それでも置き場所が見つからなければ建物の工事が遅延してしまう。現場は一事が万事こんな調子で、行政、組合、ゼネコンと、様々な関係者の思惑が錯綜するなかで調整を図りながら事業を進めるのは、かなり大変でした」

これまでにない、多世代共生型街づくり。
たくさんの制約を乗り越えながら事業を推し進めていく


〈再開発〉は、公共に資する事業であることから補助金が交付される。これは事業主体である組合にとってメリットとなるが、宇津木たちにとっては必ずしも喜ばしいことばかりではなかったようだ。

「補助金は、事業開始時から行政と詳細を協議し用途も子細に決められています。植栽の一本一本にも補助金がついたりするのですが、工事中は小さな変更も、それが補助金の対象となっている場合は、承認が得られるまで工事はストップ。手続きに時間がかかり、工事に遅れが生じそうな場面も多く、ハラハラしっぱなしでした」

こうした〈再開発〉特有の事情に加え、今回のプロジェクトでは2つめのキーワードである〈大規模〉というオマケがついている。結果、作業量も膨らんでいったことは想像に難くない。

「マンションでは販売戦略との兼ね合いもあり、フローリングやクロスの素材、色など、細かな仕様は着工前後で絞り込み、モデルルームの建築に反映します。販売会社さんやインテリアコーディネーターさんを交え、ターゲットを設定しながら、みんなで『ああだ、こうだ』と言いながら決めていくのは楽しい仕事です。でも今回に限って言えば、住戸数も多く、しかも多世代向け。プランは45タイプにも及び、物決めひとつとっても、尋常な数ではありませんでした。それでも、この街に住まう人々を想像しながら、一つ一つ積み上げて計画を進めました」

共同で事業に取り組むことの難しさ。
同じ方向を向くために、丁寧に想いを共有していく


3つめのキーワード〈複合用途〉とは、このプロジェクトには、住宅のみならず、商業施設やオフィス、庭園が含まれていることを指す。〈複合用途〉は再開発事業のトレンドにもなっているが、それは、現状の街の課題や社会のニーズを解決するためには、複数の用途を組み合わせた街づくりが必要だからだ。そして、その課題認識を踏まえて行政が描く都市像に合致した再開発計画とすることで、今回のプロジェクトのように、再開発事業者が行政に容積率の緩和を認めてもらえるケースがある。

「街の既存の課題やニーズを解決することはもちろん、結果として事業者は事業性を高められ、行政は事業者の建物工事に合わせて社会基盤を整備できるという点で、〈複合用途〉は双方にとって好都合な取り組みでもあります」

ただし、商業施設へのテナント誘致や、容積率アップに伴う多数の住戸販売は、ときに事業者にかかる負担も大きくなる。そこで本プロジェクトは4つめのキーワードである〈共同事業〉として組成されることになったと、宇津木はその背景を解説する。

「日鉄興和不動産が幹事会社となり、テナント誘致や住宅販売において他社への協力を仰いでの〈共同事業〉でしたが、会社ごとに事業に対するリスクヘッジや投資の度合いは異なります。そのため、販売価格設定や追加投資についてなど意見が異なってしまうことは多々ありました。それでも、地権者の方たちの想いを汲みながら根拠を示し、この街のバリューを向上させる最適案を提示して、話をまとめるのが幹事会社としての私の役目。幸いにも、こちらの想いや考えを受け止めてくれる担当者の方々にめぐり合えたことは、すごく幸運なことでした」

プロジェクトの真髄はコミュニティの形成にある。
そのために"街づくりサポーター"を募ろう


再開発、大規模、複合用途、共同事業...。もうここまでで十分に宇津木の活躍ぶりがうかがわれるのだが、実はこのプロジェクトの真髄、彼の仕事の真骨頂は、ここから始まる。それが最後の重要キーワード、〈コミュニティ形成〉だ。

「『多世代共生型街づくり』を実現するためには、単に建物を用意すれば済むという話ではなく、むしろその先の〈コミュニティ形成〉をいかに実現するかがカギと考えていました。そこで〈場〉〈人〉〈仕組み〉の3つの観点から、さまざまな取り組みを実施しました」

まず〈場〉については、設計段階で仕掛けを作った。敷地中央には、住民が集まる独立した共用棟を計画し、各棟に配置された施設も含めると、共用施設はその数なんと23。緊急避難場所にもなる約7,500m2もの庭園もある。これだけの共用施設を備えた分譲マンションなど聞いたことがない。おそらく前代未聞であり、「街づくり」にかける日鉄興和不動産の並々ならぬ情熱を宇津木自身、肌で感じていた。それだけに、この施設をどうやってコミュニティ形成の中で意味のあるものに昇華していくか。宇津木の行動は早かった。

「竣工の1年ほど前、私はすでにご契約いただいた入居予定の皆様にダイレクトメールを発送し、"街づくりサポーター"を募りました。『一緒に、この街をつくっていきませんか』と」

添えた言葉はシンプルだったが、宇津木の気持ちは契約者の心に届いた。瞬く間に40名もの〈人〉が集結。さらに、多世代共生型街づくりの実現へ向けて住宅入居予定者だけではなく、オフィス、保育園、商業施設、近隣企業等にもこの街づくりの意義を伝え、街開きに協力を仰ぐべく奔走した。そこで宇津木は彼らとともに、まずは建設地の仮囲いを写真や絵で埋めるアートイベントを開催。そして竣工後の「街開きパーティー」を、住民自らの手で企画するワークショップを2度にわたり開くことで、コミュニティを形づくる〈仕組み〉としていった。

人がつながる仕組みをどれだけ増やせるか。
これこそがデベロッパーの使命である


こうして迎えた2016年7月16日。デベロッパーによる形式的なセレモニーではなく、住民主催による「街開きパーティー」が、共用棟前の広場で開かれた。宇津木が心打たれたのは、そのネーミングだった。「空庭祭」。事業主が決めた物件名である『武蔵浦和SKY&GARDEN』に着想を得、住民たちによって考案されたその名称に、彼らの街を想う気持ちがあふれていた。
街づくりサポーターたちによる司会進行のもと、新たにできた保育園の園児たちにはじまり、商業施設のスタッフ、オフィス棟のワーカー、近隣企業、管理会社、そして住民有志たちによって、さまざまな挨拶や出し物が披露された。集まった人の数、約1,000人。日鉄興和不動産の社員たちもよさこい踊りを熱演。負けじと、阿波踊りを得意とする住民たちが、会場に集まる人たちを次々と巻き込み、老若男女入り乱れた大きな踊りの輪をつくり出していった。そのときだった。「一緒に踊ろうよ」。宇津木は住民たちに手を引かれた。思いもしないことだった。プロジェクトを引っ張ってきたはずの自分が、今は引っ張られている...。目頭が熱くなるとともに、宇津木は思った。大丈夫、この街はきっと、いい街になるはずだ。
現在、『武蔵浦和 SKY&GARDEN』では、さまざまなイベントや活動が行われているが、画期的なのは認定サークルであれば、居住者以外の地域住民も共用施設を利用できること。居住者の理解なくしては不可能な取り組みだが、街づくりサポーターが求心力となって、世代を超えた交流の輪が、次々と生まれている。宇津木はそうした光景に手応えを感じ、次は防災訓練などを利用し、その輪を強固にできないかと、新たな〈仕組み〉づくりを思案するのである。

「自分たちのつくった場を活用し、街のなかで世代を超えて人がつながる仕組みをどれだけ増やせるか。これぞデベロッパーの使命であり、私はこのことを追求することで、多くの人々がともに暮らし、人の想いが息づく街をつくっていきたいと思うのです」
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